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裕子が二泊三日の旅支度をして、銀閣寺に近い山ぎわの、木村春樹こと東国のアトリエを訪れたのは、火曜日の昼過ぎです。銀閣寺へいく観光客からのがれて右手は哲学の道です。少し行ったところを山の方へいくと、和風の門構えで屋敷です。アトリエは別棟で、洋風仕立てです。裕子は、春樹画伯の担当になったから、今後は頻繁に、このお屋敷を訪れることになります。
「はい、お店のほうは、土日にお客さまがいらっしゃいますから、平日がよろしいのです」
「そうですか、それじゃ、安心だ、アルバイトの子で、お店は大丈夫なんですか」
「わたしに連絡取れなくても、円山がおりますから、大丈夫です」
キリッとしまった体つき、面長の美人顔、ショートカットの髪の毛が、清楚な感じをかもしている裕子です。スーツケースにインナーの着替えをいれ、洗面道具とコスメ一式、小旅行のいでたちです。アトリエは16坪という春樹。畳に換算32畳、八畳間を田の字に組んだ広さです。そのほかにバストイレ、キッチンと仮眠ができる六畳のシングルベッドが置かれた部屋があります。
「荷物は、ここに置いておけばいい、ここは自由に使ってもらえば、いい」
裕子のかぐわしい匂いが、漂ってくる感じで、春樹はこの美女を受け入れて、内心、動転している自分を、処理できるかどうか、迷ってきています。
「準備が出来たら、デッサンさせてもらうから、ラフな格好でいいよ」
木綿の薄手で生成りのワンピースに着替える裕子。インナーは身につけたままです。アトルエに入ります。広いはずのアトリエも、描かれた絵があり、絵の具や筆が並ぶ大きな机というか作業台があるから、それほどに広いとは、裕子には思えません。
「あら、先生、ここには、東国さまの絵は、ございませんの?」
生成りのワンピース姿になった裕子が、アトリエに置かれた絵が、風景画や着衣の美人画ばかりで、東国の雅号で発表される絵は、見当たらないのです。それは、春樹は、別の保管室にある、というのです。アトリエからは見えませんが、母屋の庭に続く蔵に保管しているのだと。
「あとで、そこへ行って見せましょう、コレクションの浮世絵とかも、あるから」
40才の春樹はイケメンです。背もそれなりに高くて端正な姿は、男性モデルとしても通用しているところです。
「立ったままで、いいから、一枚、スケッチだね」
裕子は、ただ、単に、立っただけ、足は少し内股な感じで、ショートカットの髪は乱れることもなく、清楚な感じです。28才の裕子は、まだまだ、若さばかりの美肌です。
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アトリエで、最初のスケッチはインナーをつけたまま、生成りのワンピース姿で、立ったままでした。五分とかからないスケッチです。まだここへ来たばかりの裕子には、スケッチされているあいだ、目線を微妙に動かしながら無言です。アトリエのなかを見ています。右には大きなガラスの窓がはまっていて、その外は山の斜面になっていて、雑木が生えています。左は、大きな鏡が張ってあり、その横側はハメ込みの大きな書棚です。応接セットのテーブルと黒革製のソファーがあります。それくらいの調度品で、ほかは絵が描かれる道具類、筆とか絵の具の瓶とか、高級感あふれるシックな色合いです。
「そうなんだ、祖父の代からだけど、ぼくになって、手直ししているんだ」
語りかけてきたのは晴樹のほうからで、スケッチが終えられるときです。裕子は、初めてのアトリエ訪問で、モデルという仕事で来ているから、緊張しています。
「先生の血筋は日本画、それも京都派の流れを組む、新進の作家さん」
「そうでもないんだけれど、世間ってのは、血筋とか、肩書ばかりを、重んじるんだ」
「でも、春樹先生と、東国先生が、おなじお人だとは、世間は知りません」
男と女、広い屋敷のなかの広いアトリエ、そのなかで男の春樹先生と、風鈴館のディレクター、女の裕子の二人だけです。何かが起こるかもしれない、裕子は、成り行き任せで、なされるがままでいこうと思っているところです。東国が描く浮世絵というか錦絵などは、こってり男と女の交情を、リアルに描かれているのです。裕子は、やっぱり、東国の絵を見る時には、ざわざわと胸騒ぎがしてきます。このアトリエには、その気配はありません。このアトリエは木村春樹画伯のアトリエなのです。
「先生がおしゃってた、土蔵って、見せて、いただけるんですか」
「そうだね、これまでは円山師匠にしか見せていないんだけど、裕子さんには、特別だね」
母屋の庭の横につくられている土蔵です。春樹は、その土蔵を、空調管理して絵を貯蔵しているという噂です。スケッチが終わって、裕子は、土蔵を見せてもらえることになります。アトリエから出て、廊下でつながる母屋の手前にある土蔵です。扉がひらかれ、電気がつけられ、春樹にみちびかれ、ワンピースにカーデガンを羽織った裕子が、素足にスリッパを履きます。
「すごい、凄いですね、先生、凄いです」
土蔵のなかに足を踏み入れ、天井からの電灯に照らされた、オレンジ色の部屋。六畳二間ほどの内部、高い天井、棚になっていて絵が収蔵されています。床には数点の春画が置かれ、その描かれた色艶に、裕子が驚いてしまったのです。土蔵の真ん中は四畳半ほど、紅い絨毯が敷かれた床です。太くて黒ずんだ角柱は中心を外れていて、鉄のワッパがいくつも付けられています。天井部には井の形に鉄棒が組まれていて、鉄のフックがつけられたロープが降りるようになっていて、三方が棚のコーナーに、行李と呼ばれる衣装箱が置かれています。蓋されているから、中に何が入れられているのか、裕子にはわかりません。アラフォー独身の春樹こと東国は、土蔵に入ったときから、ムラムラと、情欲がわいてきて、清楚なワンピ姿にカーデーガンを羽織った裕子のからだを、意識してしまいます。
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土蔵の内部は、高い所に小さな窓があるだけで、手元は暗いから天井からの照明で明るくされています。四畳半ほどの絨毯敷の床は、ふわふわ、素足の足裏に気持ちいい、なんと床暖房になっているんです。
「そうですか、裕子さんは、美術館の学芸員をなさっていたんだ、詳しいわけだ」
裕子の後ろから春樹が声をかけてきます。二人だけの土蔵のなかです。声をかけられ、ハッと気づいた裕子。土蔵の扉が閉められ、密室状態になっているのです。そのとき、肩に春樹の手が置かれ、後ろ向きのまま、抱き寄せられてしまったのです。
「あっ、だめですよ、先生ぇ、こんなところで、だめですよぉ」
ハスキー気味な声が、裕子から小さくですが洩れます。強い抵抗でもなんでもなく、ワンピを着た裕子のからだは、春樹に抱かれてしまいます。春樹の腕の中で回転させられ、向き合ってしまって抱かれる裕子。立ったままです。土蔵の中は、それだけで密室です。その重厚な色合いに、裕子は、意識を吸いとられるかのように、目の前に立てかけられている東国の名で描かれた春画の世界へと、のめりこんでいくのです。
「あっ、あっ、せんせい、ああっ、先生・・・・」
抱かれてキッスされだすと裕子はもう、そのまま崩れてしまう感覚で、からだの力を抜いてしまいます。
「ううっ、うううっ、ふぅううっ」
春樹の行為は手際よく進められます。まるで慣れて慣れて慣れ尽くしたように、裕子は生成りのワンピースを脱がされ、スリップをめくられ、ブラをはずされ、ショーツを脱がされてしまったのです。その白くて透けたスリップも脱がされても、裕子は無抵抗です。なされるがままに為されたい、そんな思いがあったから、抵抗しないまま、春樹も裸になるようにと仕向けるのです。
「ああ、だめ、ああっ、先生、縛りは、ああっ」
いきなり、裕子は、東国に縛られていきます。まだ交わってもいない相手から、土蔵に入ってきたところで、抱かれて縛られだしたのです。
「裕子クン、円山師匠から、お聴きだとおもう、緊縛モデルのはなし」
「ああん、それは、それとなく、お聴きしておりましたけど」
少しびっくりの裕子です。行李の蓋がひらかれて、細縄が取り出されます。慣れた手つきで春樹は裕子の後ろにいて、後ろ手に縛られる裕子。
「あっ、ああっ、はぁああ、はぁああ」
裕子のくちからはもう甘えるようなハスキー声が、洩らされてきます。後ろに手をまわしたまま、絨毯に座る裕子。後ろから春樹が抱いてきます。足首を交差させられ、細縄が巻かれ、引き上げられると、膝が開き、太ももから足首が、ひし形になってしまいます。足を縛られてしまって、裕子は苦しい体位にされます。肩から背中を、柱に凭れさせる格好で、臀部がもちあがり、股間が丸出しにされてしまったのです。